リーダー育成機関ウエスト・ポイントに学ぶ、スポーツでリーダーを育てる指導法とは?<1年目編>

      2016/09/24

westpoint-leadership

Text by Hiroyuki Yanase(GM)
アスリートのためのビジネススクール by AtoEパートナーズ

 

みなさん、こんにちは。

スポーツの指導をされている方は、技術指導だけでなく、人間性の向上を目指して指導している方がほとんどですよね。

ただ、人間性の向上、と一言で言っても、そう簡単なことではないのは、いつも指導している方が1番よくわかっていると思います。

 

だけど、アメリカのある教育機関は、人間性の向上を大切にし、多数の人格の高いリーダーを輩出することに成功を収めています。

そこの指導方法は、日本の部活動で行なわれている指導と近いものもあり、部活動の指導を考える上ですごく参考になります。

そこは、アメリカで最初のリーダーシップ育成機関だと言われているところ。その教育機関の名前は、「ウエスト・ポイント」です。

※この記事は、「ウエスト・ポイントはリーダーシップをどう教えているか」(L・R・ドニソーン著 斎藤精一郎訳)を参考に書かせていただきます。

ウエスト・ポイントとは?

ウエスト・ポイントは、アメリカ陸軍士官学校の名称です。日本で言うところの防衛大学で、高校を卒業した後、軍に入るための訓練を受ける学校です。

このウエスト・ポイントは、前述の通り、リーダーシップ育成として有名で、アメリカでは、「石を投げれば、ウエスト・ポイントに当たる」と言われるくらい、アメリカのリーダーたちの多くが、ここ出身だそうです。

どのようにリーダーを育成しているのか?(1年目編)

まずは、入学してから最初の1年間、何を重要視して育成しているのか、見てみます。

1年目は、徹底的にフォロワーシップの育成を行います。リーダーシップではありません。フォロワーシップです。

フォロワーシップとは?

フォロワーシップとは、簡単に言うと、リーダーに従うことです。本当はもっと奥が深いですが、とりあえず、今日のところはこう思っていてください。

なぜリーダーシップ育成機関が、フォロワーシップを学ばせるのか?

「ウエスト・ポイントはリーダーシップをどう教えているか」の本にはこう書いてあります。

 どのリーダーもよきフォロワー(従う者)である。何者からも抑制されずに組織を指揮する者はいない。なぜなら、どんなに最高の地位にあるリーダーであっても、命令に応えなければならない、もっと高い権威というものが常に存在するからである。
統合参謀本部長は最高司令官に対して責任を持つ。そしてまた、合衆国大統領は議会とアメリカ国民に応えなくてはならない。多国籍企業の最高経営責任者でさえ、重役会や株主、顧客に応えなければならない。彼らの成功は、いかによく従うことを学んだかに負うところが大きいのである。 (P38)

つまり、誰であっても、自分の好き勝手やれるわけじゃなくて、誰もが誰かのフォロワーであり、その誰かの要望に応える必要があると。

だから、リーダーもまずはフォロワーシップを学ぶ、ということです。

 

この考え方は、確かになーと考えさせられました。

僕も独立して、好きなことをやるぞ!と最初は思っていましたが、お客さんの要望に応えるためには必死にやらないといけなくて、自分の好きなことというよりも相手が求めることをやる、という感じになりました。

なので、仕事の1番の基本はフォロワーシップなんだなと、今強く思っています。

 

では、

フォロワーシップをどのように身につけさせているのか?

ウエストポイントでは、要求されたことを完璧に行うことが求められます。

例えば、野球部に例えると、こんな感じです。

先輩「スパイクは毎日必ず磨け、と説明したけど、昨日磨いたか?」

新入生全員「はい!」

(先輩のチェックが入り、少し汚れたスパイクを見つける。)

先輩「そのスパイク、それで磨いてきたと言えるのか?」

新入生A「一応、昨日の夜、磨いたんですが。。」

先輩「お前が磨いたかどうかじゃない。そのスパイクが、それで完璧に磨いたと言えるのか?」

新入生A「いいえ」

先輩「やり直し。磨いてから練習参加しろ。」

 

スパイクを磨く、という1つのルールにも明確な基準があり、それを完璧に実行し先輩から認められる、という成果を出すことが求められます。

選手たちは、チームのルールや指示を求められた基準で、1つ1つ完璧にやり切らなければならないんです。

 

ただここまで聞くと、「こんなのでリーダーが育つのか?」と、疑問に思う人もいるかもしれないですね。だけど、ウエスト・ポイントでは、ただ服従することを教えようというのではないらしい。

リーダーシップ育成のために、1つ1つがちゃんと目的を持って考えられたプログラムとなっており、一見相反するように思われる、服従と自発的行動が両立できるようにしています。

 

つまり、1つ1つの指示には明確に基準があって、その基準を満たすことには、100%服従することが求められています。ただ、その達成方法については、各自の自発的行動に任されているのです。

 

そんな日々を1年間続けていると「全てのことを完璧に遂行する」という哲学が当たり前になり、驚くほどの粘り強さが生まれます。

部活動でも、選手の行動がこのようになってくるかもしれません。

 

(グラウンドにて)

指導者「○○(新入生の名前)、田中先生に頼んで、この紙をチームの人数分コピーしてきて。」

新入生「はい。チームの人数分というのは、監督も含めて31枚でよろしいでしょうか?」

指導者「いいよ。」

新入生「はい。」

(職員室に移動)

新入生「鈴木先生、田中先生はいらっしゃいますでしょうか?」

鈴木先生「田中先生、今、職員室にはいないな。会議中じゃないか?」

新入生「監督からコピーを頼まれていまして。」

鈴木先生「コピーは、それぞれの先生が持ってるカードを入れないと使えないんだよ。
野球部のは、田中先生が持ってるんだと思うから、田中先生にお願いしないとダメだな。」

新入生「では、田中先生の携帯電話の番号伺ってもよろしいでしょうか?」

鈴木先生「番号は、080-1234-××××だよ。」

新入生「ありがとうございます。」

(田中先生に電話するも、電話出ず。。。)

新入生「鈴木先生、先ほどはありがとうございました。田中先生、電話に出ませんでした。」

鈴木先生「やっぱ、会議だろうな。ただ会議だとすると、多分まだ30分は帰ってこないぞ。」

新入生「ですよね。では、鈴木先生、近々コピーする予定ないですか?」

鈴木先生「ん? 明日、コピーはするけど。」

新入生「あ、本当ですか?では、明日田中先生にお願いして、野球部のカードをお貸しするので、今日は貸していただけませんか?
今、どうしてもコピーをしたいので。」

鈴木先生「う〜ん、まあいいか。じゃあ、明日朝8時にコピーするから、それまでにちゃんと職員室くるか?」

新入生「わかりました!ありがとうございます!」

(無事コピー完了し、グラウンドへ。)

 

このように何が起きようと依頼されたことを完璧にやり切ること。それを当たり前にすれば、どんな壁も選手が勝手に乗り越えようとします。

私も社会人になってから、「ハードルは解除の対象」と教えられました。つまり、求められた成果を出す道にハードル(=障害)があっても、必ず乗り越える方法があるよ、ということです。

そのためには、「依頼されたことを完璧にやり切る」という意識を作ることが最も大切です。

 

 

だけど、こんな選手を育てるなんて、そんな簡単じゃないよ。という方へ。

 

フォロワーシップを身につけるための3つのポイント

ウエスト・ポイントを参考に、選手がフォロワーシップを身につけるために3つポイントを紹介します。

①自分の考え方ややり方の限界を理解させる。

選手が今何歳であろうが、それまで生きてきた中で、少なからず成功体験を持っています。

その成功体験をたくさん持ち、自信のある選手ほど、「オレはできる!」「オレのやり方は間違っていない。」と信じ、なかなか他の人の意見を素直に聞けなかったり、指導者のやり方に従わなかったりします。

じゃあ、どうするか。

自分が今持っている考え方ややり方には限界があって、まだ自分は何も知らないんだと知る、ということです。

例えば、
「スパイクを磨け」と言われても、磨き方がわからない。
「グラウンド整備をしろ」と言われても、正しいグラウンド整備の仕方がわからない。
「今月の目標を達成するように練習しろ」と言われても、どのように練習すればそこに到達できるかがわからない。

成果を求められ、自分で考えてやってるのに全然うまくいかない。

そんな時に、素直に指導者の言うことを聞いてるメンバーの方が結果を出していることに気づく。

そうして、この指導者の言うことを聞いていた方が、もっと上達するし、もっと自分は成長できるんだ、と思ってもらえれば勝ちです。

 

②リーダーが持つべき価値観をチームの共通の価値観に据える

自分が従うべき対象であるチームの価値観は、誇り高いものなんだと理解する必要があります。

ウエスト・ポイントは、これまでの歴史で数々のリーダーを輩出してきているので、士官候補生たちは、「あのリーダーたちもこれをやってきたんだ。」と信頼して、ついていくんです。

それと同じレベルに持って行くことは、普通のスポーツチームでは難しいと思います。

ただ、少なくとも、選手に対して指導を行う時には、指導者が持ってる個人的な価値観で指示をするのではなく、チームが目指すべき価値観を明確にし、それがリーダーになるために必要なんだとしっかり選手に理解させることが必要です。

ちなみに、ウエスト・ポイントで、1番最初に教えられる大切な価値観は、

「嘘をついたり、人を騙したり、人の物を盗んだりしてはならない。
また、そうする者たちを見逃してもいけない。」(P88)

ウエスト・ポイントで、最もしてはいけない行為がこれです。これをすると退校処分という重い罰が下されます。

つまり、これが人格の高いリーダーになるために必要な価値観だということです。

 

③自分には求められた成果を出す能力があるという自負心を身につける

何度も何度も求められた成果を出そうと取り組み、最初はうまくいかなくても、たくさんの成功体験を積むことで、自分には求められた成果を出す能力があるんだ!と思えるようになってきます。

そうでなければ、従おう!と思っていても、成果は出ません。

例えば、野球の試合で、バントのサインが出た時。その時に「できるかな?」という不安ではなく、「絶対にできる!その能力を持っている。」という自負心を身につけているかが成功できかどうかの大きなウエイトを占めています。

そのためには、練習試合でバントを決める、という成功体験を作ることが大切です。

ただ、練習の中でも成功体験として認識させることが重要です。

そのためには、なんとなく練習をさせるのではなくて、必ずバントにも求める基準を決めて達成感を作ること。

フリーバッティングの初球にバント練習を入れるのであれば、「絶対決める意識でやる」という曖昧な基準ではなく、「このゾーンにこの強さで転がせたら成功。それを成功率6割が達成基準。」と明確にすることで、達成した選手の達成感を作り、自信にしてあげると良いです。

 

まとめ

最初にも書いた通り、部活動において、人間的成長を目指す、と言うことは簡単だけど、日本のリーダーとなるようなレベルで育成するのは難しいです。

今回はそこに向けた工夫の、ほんの一部に過ぎません。

ただ、ウエスト・ポイントは、アメリカのリーダーとなるような人材を輩出しているという点で、どのように育成しているかは非常に興味深いです。

今回は、1年目に焦点を当ててみましたが、次は、その後、どう育成しているかについても記事を書いていきます。

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